親子法案について、「すまいる親の会」の意見を述べてきました
親子法案について「すまいる親の会」の意見を述べてきました
親になる・親になった人の立場から
現状の不妊治療の課題および「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」に関して2020年 11月 2日(月)
すまいる親の会 事務局 清水 清美
すまいる親の会 事務局 清水 清美
三浦貴美子
1.すまいる親の会の紹介
2003年、非配偶者間人工授精(AID)で親になることを検討しているカップルの自助グループとして設立。当初AIDに関する情報がほとんどなく、AIDに詳しい研究者や専門職者を、国内外から講師として招聘し、AIDで親になった人や生まれた人の体験談や養子縁組みの現場での取り組みから、家族をつくるとはどういうことなのか、どのようにすれば、AIDによる家族づくりでも、より良い家族を作る事が出来るのか、真摯に取り組み模索を続けてきました。
その中でも特に、AIDで生まれたことを大人になって知った人がアイデンティティ-クライシスを体験することを学び、生まれた人の視点からこの治療に向き合い、取り組んでいかなければ、家族は幸せにはなれないのではないかと考えるようになりました。昨今、この考えを治療前から学んでいる親たちは、子どもに対して真実を話しながら子育てをするという家族のあり方を検討するようになってきました。
現在、主な活動として、AIDで親になることを検討しているカップルへ、不妊を受けとめていくためのエモーショナルサポートや新しい家族形成に関する情報提供(表1)を主とした勉強会「すまいる勉強会」を年に2回、AIDで親になった親子の交流の場として「キッズ会」を年に1回開催しています。2019年の勉強会には、各回約60名の参加があり、会場の収容能力により参加者を絞らざる得ない状況となっています。
2.現状の不妊治療の課題
1)ドナー不足により日本産科婦人科学会の会告下での実施が事実上困難となってきた
わが国のAIDは70年以上の歴史があるが法的な規制はなく、日本産科婦人科学会の会告「非配偶者間人工授精と精子提供(1997年,その後2006年・2015年改定)」がガイドラインとして、登録医師らによって遵守されてきました。会告には、不妊カップル(レシピエント)の条件として婚姻関係にある夫婦に限定し精子提供者(ドナー)は匿名とする、レシピエントやドナー生まれた子どものプライバシーに配慮する、実施する医療機関は学会に登録し実施記録は保持する、営利目的での精子提供の斡旋もしくは関与の禁止等 が明記されています。
昨今、上述した「生まれた人の視点」考慮するようになった医療者らは、原則匿名の提供精子を用いるものの、不妊カップルには子の幼少期からのtellingを奨励し、ドナーの同意には将来的に個人情報の開示が求められる可能性について説明するようになりました。しかし、個人情報の開示への抵抗や親子関係のトラブルに巻き込まれる懸念からドナーが激減し、「会告」下における精子提供の実施が困難となってきました(日本経済新聞,2018)。
本会においても、勉強会に参加する人は数年前までは日本産科婦人科学会に登録している医療施設での実施を検討する人が主でした。しかし、昨今では、登録外の施設にて、親族内(親子間・兄弟間)でAIDや体外受精を検討する人、国外の医療施設や精子バンクの利用を検討する人が多勢を占め、また少数ではあるが「提供者との性交渉とシリンジ法では、妊娠率に違いはあるのか?」など質問する人も散見するようになった。参加者の関心が、「ドナーバンクのことが知りたい、台湾やアメリカの治療施設について知りたい」等、「どこで、何を使って実施するのか」という関心へシフトし、勉強会の目的である「より良い家族を作るために熟慮する」ことが困難になってきています。
また、これらの技術は現行においては「会告」外の水面下での実施であり、産んだ親にとって自己肯定感を得にくく、親から子へのtellingを困難にさせると懸念している。また、トラブルが発生しても表面化されることは少ないと懸念しています。
3.生殖補助医療法案「生殖補助医療の提供及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」について
本法案は、治療を希望した男性が父として確定され、生まれた子どもは嫡出子としての立場が明確になること、提供者は扶養義務等の問題に巻き込まれる心配がなくなるなど、治療を希望した男性(非提供者)、提供者、生まれた子の人権の保障として、非配偶者間の生殖医療において必須の必要条件と考えます。
さらには、法律案の概要の基本理念(第3条)にあるように③生殖補助医療に用いられる精子・卵子の採取、管理等については、本技術は医療技術と定め、必ず医療管理下で実施され(精子提供の場合、医療を介さない方法で実施できてしまう)、レシピエント、ドナーそしてなにより生まれてくる子どもの安全性が確保されることを望みます。
また、④生殖補助医療により生まれる子については心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができる必要な配慮として、「出自を知る権利」を保障する体制の構築を望みます。
「出自を知る権利」の保障を遂行するためには、子どもにどのように望まれ生まれてきたのか、その事実を親が伝える(以下telling とする)こと、そして必要な時にドナーを特定できる情報が得らえることが必須となります。生まれた子が「ドナーを知りたい」と考えるか否かは不明だが、本技術を遂行する、国や医療そして親は、生まれた人が望むときに望む情報が得られるようその体制の構築に最善を尽くすことが重要と考えます。
また、tellingすると、家族が崩壊してしまうと考えている不妊カップルは多いです。tellingしてうまくいっている家族の存在を知らないからだと思います。養子を迎える親が親になるために研修を受けたり、養育環境の視察を受けるように、非配偶者間生殖医療で親になる人は、「妊娠」や「出産」をゴールにするのでなく、子どもが生まれた後のことにも目を向けられるように、「親になるため」の研修を受ける機会を設けることは重要と考えます。
治療に入る前に、生まれた子とどのような親子関係(家庭)を築きたいのか、自分たちがつくりたい家族について、「誇りと責任が持てるか?」検討することは私たちの活動を通してとっても重要だと考えています。